2021年10月5日火曜日

米国生物医学先端研究開発機構(BARDA)について Vol.2

皆様こんにちは。
メディシノバ東京事務所の奥山です。

本日は「米国生物医学先端研究開発機構(BARDA)について」のVol.2です。
BARDAの「開発」と「調達」の具体例について書いていきたいと思います。

前回は、BARDAとはどのような組織なのか、公開情報をもとにご紹介しました。
その中で、BARDAという組織は、米国国民を公衆衛生上の危機から守るために、必要な医療・医薬品を調達・開発する、という極めて明確なニーズを持っていて、その目標達成のためには、必要ならば、自ら積極的に開発段階から直接かかわってくる組織であり、その体制を備えていることを説明しました。
では、BARDAは具体的には、どのような関与をしてくるのでしょうか。
公開情報を元にいくつか具体例を見てみましょう。

BARDAの最近の活動の一つとして目立つのは、第1回でも触れたように、抗SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)ワクチン開発に対する資金拠出でしょう。
しかしながら、BARDAは2009年のH1N1インフルエンザのパンデミックの折にも関与しています。
米国下院での公聴会の記録から引用してみましょう。

In May 2009, HHS and BARDA approached CSL Biotherapies to inquire whether we might be able to provide an H1N1 vaccine for the United States.
CSL Biotherapies entered into a one-year special contract initiated on May 28th, 2009, to provide 36 million dose equivalents of H1N1 bulk antigen to the United States Government.
CSL Biotherapies did not have a previous pandemic contract with the United States Government.

まとめると、
  • 2009年の5月にBARDAとHHS(アメリカ合衆国保健福祉省)から豪に拠点を置くCSL社にアプローチがあり、米国向けH1N1インフルエンザ用のワクチン供給の打診をうける。
  • 2009年5月28日に、3,600万回分の抗H1N1インフルエンザワクチンの供給契約を締結。
  • CSL社は、これ以前には米国政府とのパンデミック時の供給契約は締結していなかった。

この後、2009年9月15日には、CSL社のH1N1インフルエンザワクチンは、他社(Sanofi社、Novartis社(当時)、MedImmune社、ID Biomedical社(GSK社の子会社))のワクチンとともに、承認されています。
契約も含めて、このスピード感と当事者性がBARDAの組織としての性格を位置づけているのではないでしょうか。

一方、天然痘ワクチンの調達のケースでは、もう少し状況が異なります。
Project BioShieldのAnnual Reportから引用してみましょう。
Bavarian Nordic社が開発していた天然痘ワクチンであるMVA-BN(IMVAMUNE)は2007年にProject BioShieldにより、供給契約が締結されましたが、この契約のまとめは、以下の通りです。

  • 米国で承認されている天然痘ワクチンは、既に当時存在していて、備蓄もあったが、弱毒株を用いた製品であり、安全性に課題があった。一方、MVA-BNはヒト細胞内で増幅しないように設計されていて、安全性が高いことが想定された。
  • 契約当時、Bavarian Nordic社では開発段階にあり、米国を含むどの国でも承認されていなかった。
  • 本契約は、Project BioShield下で、製品納入前の支払いをマイルストーン方式で行うように設計された最初の契約であった。

Project BioShield Annual Report AUGUST 2006 – JULY 2007 より抜粋
On June 4,2007, a contract was awarded to Bavarian-Nordic for 20 million doses of MVA vaccine to treat 10 million people.
This contract was the first to use the Project BioShield authorities as amended under PAHPA to allow milestone payments, as well as the original Project BioShield authorities allowing limited payments before delivery if they are deemed necessary to complete the acquisition.
The first milestones eliciting non-refundable payments under the contract are anticipated to be achieved in fall 2007.

上記引用にあるPAHPAは、まさに、BARDAの設立根拠となる法律です。
必要な製品を確保するためには資金(Project BioShield)の運用に柔軟性を持たせる必要があり、それを可能にしたのが、PAHPAであり、その運用の要としてBARDAが設立されました。
契約の20M doseのうち、最初の1.15M doseは2009年には納入されています。
一方、各国承認は、EUで2013年、米国で2019年でした。
承認前から、既に購入は始まっており、これは、BARDAの役割の一つの特徴といえるでしょう。
米国内承認という観点からすると、およそ10年という時間を買ったといえるかもしれません。

BARDAのミッションの一つ、「調達」の具体例をご紹介しました。
次に、「開発」の具体例をご紹介しましょう。

BARDAが注力する分野は、感染症やバイオテロなどを扱うIEID分野に加えて、CBRN分野があります。
CBRNの中のRN、これは、Radiation/Nuclearで、放射能や核物質による障害等が対象になります。
放射線被ばくにより引き起こされる急性放射線症候群(ARS:Acute Radiation Syndrome)に対応する目的で、BARDAは、Project BioShieldを通じて、2013年9月に、Amgen社のNeupogenを備蓄用に調達しました。
Neupogenは、抗がん剤(化学療法剤)治療による好中球減少症を適用として、既に承認されていた薬剤ですが、ARSについては承認されていませんでした。
この適用については、2年後の2015年に承認されることになるのですが、承認申請には、BARDAが斡旋した、NIAID(アメリカ国立アレルギー感染症研究所)の動物モデルを用いた試験結果が使用されました。
ARSは、その疾患の性質から通常の医薬品の承認プロセスに必須である、ヒト臨床試験が出来ません。
従って、NIAIDが実施した動物試験のみに基づいて承認がなされましたが、これは、通称、Animal Ruleと呼ばれる規制に基づいています。
Animal Ruleは2002年に制定されましたが、まさに、BARDA設立に先行して、公衆衛生上の危機に対応する医学的防衛策(Medical Countermeasures (MCM))を準備する必要性から制定された規制なのです。

次に、Mapp Biopharmaceutical社(以下、Mapp社)の事例を見てみましょう。
Mapp社は未上場のベンチャー企業で、Zmappと呼ばれる抗エボラウイルス抗体のカクテルの開発で、2014年にBARDAと提携しました。
BARDAが提供した開発支援は、抗体の精製プロセスの改善と、製剤の充填を行う企業とのパートナリングでした。
BARDAの開発に関わる機能として、下記のような記述があります。

Many of BARDA’s industry partners are small biotech companies like Mapp Biopharmaceutical that do not have extensive experience with clinical trials, regulatory submissions, and manufacturing and packaging.
BARDA’s core assistance services are designed to help these small companies “make it across the finish line to FDA approval,” said Dr. Robinson.
……
In addition to its fill-finishing network of five CMOs, BARDA’s core services include a national network of 17 companies with expertise in lab animal studies, clinical studies network of five CROs, and three Centers for Innovation in Advanced Development and Manufacturing (CIADM).

簡単にまとめると、

  • BARDAの提携先は、Mapp社のような中小企業も多く、必ずしも十分なリソースを有していない企業もある。
  • BARDAの役割は、そういった企業がFDA承認を獲得できるようにアシストすることである。
  • Mapp社支援に活用した製剤充填CMOのネットワーク(5社)に加えて、動物試験施設(17社)、臨床試験支援施設(CRO:5社)、先端開発・製造革新センター(CIADM:3か所)のネットワークを維持している(2015年時点)。

この記述から分かるように、先のAmgen社の例も、BARDAのネットワークを利用した開発支援の1例なのです。
更に、2016年には、Material Threat Medical Countermeasure Priority Voucher(重大な脅威への医学的対応についての優先審査バウチャー:MTMCPV)に関する法律が成立し、2018年に最初の優先審査バウチャーが付与されて以来、BARDAが支援した4つの製品がMTMCPVを付与されています。

Vol.2は以上です。
次回はVol.3、最終回です。
「当社とBARDAの提携の位置づけ」について、まとめたいと思います。
よろしくお願いいたします。


【参考文献】
1. https://www.govinfo.gov/content/pkg/CHRG-111hhrg74853/html/CHRG-111hhrg74853.htm
2. Project BioShield Annual Report https://www.medicalcountermeasures.gov/barda/cbrn/project-bioshield-overview/project-bioshield-annual-report.aspx
3. https://www.niaid.nih.gov/news-events/niaid-funded-research-leads-approval-drug-acute-radiation-injury
4. Animal Rule https://www.fda.gov/emergency-preparedness-and-response/mcm-regulatory-science/animal-rule-information
5. https://www.lifescienceleader.com/doc/how-barda-is-helping-speed-up-drug-development-manufacture-0001
https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/material-threat-medical-countermeasure-priority-review-vouchers-draft-guidance-industry